たまたま見つけた掛け時計から、国内随一の昭和家電コレクターに!
忍者の里として有名な三重県伊賀市。自然豊かなこの土地に、知る人ぞ知る国内随一の昭和家電コレクター冨永 潤さんが、巨大なアトリエ兼倉庫を構えながら暮らしている。その収集癖が始まったのは、今から約20年以上前のこと。
「はじめは、リサイクルショップでたまたま見つけたアンティークの掛け時計を購入したことがきっかけでした。それから、じゃあこの時計に合うちゃぶ台を買おうとか、だったらテレビも古いモノがいいか、とか、そんな風に部屋の雰囲気と合わせていろいろ買い揃えていったら、どんどん深みにハマってしまいました」
その後、加速度的に昭和レトロなモノが増えていき、2002年に『昭和ハウス』を設立。当初は、コレクションを一般に公開する小さな博物館であり、駄菓子屋でもあったという。「珍しいモノもけっこうあったので、せっかくだったら、いろんな方々に見てもらいたい、という想いで始めました。と同時に、駄菓子屋のような機能も持たせ、店主として母にも協力してもらえば、地域のためにも、母のためにも良いんじゃないか、と。ですが現在は、コロナの影響で当時の『昭和ハウス』はやむなくクローズ。近くの倉庫でストックしながら、昭和を舞台にした映画やドラマの小道具として貸し出しています」。そんな冨永さんが所蔵する無数の昭和家電から、特にオモシロイモノをピックアップ。
赤外線以前の昭和テレビリモコン三銃士!
今でこそ当たり前となった赤外線のテレビリモコン。しかしまだその技術が生まれる前の昭和30〜40年代には、光や音波を駆使したリモコンが活躍していたそう。その現代テクノロジー黎明期ならではのアイデアもさることながら、レトロポップなデザインに思わずほっこり。
もっとも年代が古いのが、写真左のビクター『ライトガン』。テレビの上の受光部に向けて光を照射することでチャンネルを変えるという、当時としては画期的なワイヤレスリモコンだったとか。しかしながら、外を通った車のライトなどでもチャンネルが変わってしまうという事態が多発したため、あえなく短命に終わったそう。対してもっとも有名なのが、音波で作動させる写真右のサンヨー『ズバコン』。ズバっとコントロール、略して『ズバコン』というキャッチーなネーミングで人気を博した。
複数の品目が同時に調理できる!? 昭和マインドな分割内鍋付き炊飯器
レトロなデザインとシンプルな機能性で、今でも使用可能な炊飯器。実はこれには大きな秘密が。それは、オプションパーツとして販売されていたという、分割式の内鍋。本体だけを所有していた冨永さんがとあるお宅を訪れた際に、庭の鉢植えとして使用されている分割内鍋を発見し、頼み込んで譲ってもらったという逸品。
内鍋を分割することで、白米、煮物、汁物など、異なる料理が同時に調理できる、というアイデア品。こんな知恵と発想を駆使した創造性こそが、昭和家電の面白いところ。ちなみに写真の3分割の他、2分割、4分割のバリエーションもあったそう。
メーカーも出自も不明という、謎の睡眠導入機
ネットオークションで発見し、まったくの初見だったが、とにかく古そうな電化製品という点と、『スリーピングトーン』という謎のネーミングに引かれて購入。“ジャンク品”との記載があったものの、万が一動けばラッキーくらいの感覚でポチったというが……。
説明書には、「この音を枕元で聞けば、誰でも10分間でグッスリ!」、「雨だれの静かな音を出す機械」との記載あり。つまり、睡眠導入機。許可番号も表記されているので、それなりに信頼性のあるモノであったことは窺える。しかし手元に届いた商品は、言葉どおり見事に不動。実際にどんな働きをするモノだったのかは、付属の説明書から推測するしかないという。とはいえ、「そんな謎を解明していくのも昭和家電の楽しみ方のひとつ」と、冨永さんはいたってポジティブ。
各社の“テレビ個性化戦略”が生み出した、キメラ的な昭和家電
テレビが少しずつ普及してきた昭和30年代半ばは、ライバルメーカーたちに差をつけるため、各社が多機能テレビの生産に走った時代。こちらの製品は、まさにそんな時代の流れを象徴する、テレビとレコードプレイヤーが一体となったひと品。冨永さんの昭和家電収集キャリアの中でも、数えるほどしか出合っていないというお宝だ。
冨永さんのコレクションの中でも、かなり初期に手に入れたという本品。テレビの画面サイズは14インチ。テレビとレコードプレイヤーを一体化したものの、スピーカーはひとつのみ共有仕様というのもご愛嬌。残念ながら現在は不動だというが、何か大きな仕事や博物館での展示などがあった際には、しっかり修理して見てもらいたいと考えているという、思い入れの深いひと品に。
往年のファン垂涎モノのヴィンテージパソコン
マイコンブームが加熱していた昭和53年に発売され、またたく間にブレイク。当時の市場で圧倒的なシェアを獲得したという、往年のパソコンファンにはお馴染みの名機。カセットテープを入れ替えることで、基本となる"BASIC”以外にも、さまざまなプログラミング言語でプログラムが作成できるという点、モニターからキーボードまでが一体化したオールインワン筐体という点などで人気を博した。
こちらは現在でも使用可能。撮影当日は、取材班の前で実際に起動させてデモンストレーションを行ってくれた。現在のパソコンとは異なる、碁盤の目状に整列されたキーボード配列が特徴的。冨永さん所有のカセットテープの中には、プログラミング言語だけでなく、『ドンキーコング』などのゲームタイトルも。
未完成だからこその未来がある。だから昭和家電は面白い!
いかがでしたか? 冨永さん秘蔵の昭和家電の数々。現代には遠く及ばないテクノロジーレベルの中でも、当時の技術とアイデアを駆使しながら、「少しでも便利なモノを作りたい」という各メーカーの想いに、どこか懐かしく温かい気持ちになった方も多いはず。そして何を隠そう、そんな想いに誰よりも魅せられ続けているのが、他でもない冨永さんご本人。
「今の家電って、たしかに便利で素晴らしいけど、もう最終形態というか、完成されているじゃないですか。だけどその原点には、今回紹介したような昭和家電の存在があるわけですよ。今の感覚で考えれば、『よく会議で通ったな』ってモノもたくさんあるんですけど(笑)、そういうアイデアもどんどん製品化してしまう高度経済成長期のおおらかな雰囲気とか、まだまだこれから進化するぞっていう未来への可能性とか、そういった側面まで意識して見てみると、本当にワクワクします。これからもコツコツとコレクションを増やしながら、いつか大きな博物館を作って、後世の人たちにまで昭和という時代の魅力を残していきたいですね」。
時代の流れとともに、今ではすっかり忘れ去られた昭和家電。そこに込められた、かつてのイノベーターたちの情熱と自由な創造力に想いを馳せる。そんな"モノよりコト”を楽しむ懐の深さこそ、昭和家電の魅力なのかもしれない。
- Photo/Nobuya Fuke
- Text/Satoshi Yamamoto
- Design/Daisketch
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