前の住まい手と自分達の感性を重ねる。色あふれる、“まるで北欧”な住まい。
野崎さん一家が迎え入れてくれた広々としたリビングは、どこを向いても色、色、色。北欧か!と思わずツッコミたくなる写真映えな空間には、趣味が歴然とあらわれていて清々しい。でも、“映え”を求めて派手にしつらえられただけでないことも、きっぱりとわかる。なんなら、不思議と落ち着いてきた……。色は暮らしを豊かにする?ありふれた疑問を、あえて投げかけてみたい。
- 野崎 秀幸さん/咲彩さん(美容師/コミュニティ・オーガナイザー)
- のざき・ひでゆき/さあや|HEAVENS HONTENの店長を務める、美容師歴15年の秀幸さん。コワーキングスペース・MIDORI.so の運営に携わる妻の咲彩さんと息子のりんくんと、3人で神奈川県に暮らす。
- instagram - @hideyuki19871115
以前の住人のセンスに共感した
りんくんが生まれて3人家族になった野崎さん一家が、この家に移り住んだのは2023年春のこと。住まい選びの決め手は、広々としたリビング。縦型が多い都市部においては希少なスクエアタイプのリビングを、1年以上かけてゆるゆると探し求め、ようやく巡り合ったのだとか。
「同じ広さでも、正方形に近いだけでゆったりと感じられます。子どもも、広々と遊び回れますし」(咲彩さん)
身長が182cmある秀幸さんにとっては、天井が高く圧迫感が少ないこともポイントだったが、なにより気に入ったのは、前の住人がほどこしたというリノベーション。無垢の木材を多用した西海岸テイストなデザインは、ふたりの好みドンズバでこそなかったものの、そのセンスには共感も覚えた。
「住宅メーカーによるリノベ済み物件って、『キレイだけど、なんか違う……』と感じるデザインのものが多くて。自分たちでやれればもちろん一番だけど、現実的に厳しくもあった。なら、ある程度似通った感性の持ち主が自身でリノベした住まいだったらいいなと考えて、探していたんです」(秀幸さん)
そうして、奇しくも巡り合ったこの住まい。もとのリビングは、2つの空間に壁で仕切られていた。キッチンカウンターのダイニング側は押し入れだったそうで、その名残がそこはかとなく感じられる。ひんやりとしながらやわらかな触り心地の床の無垢材は、そのまま、リビング中央の柱まで伸びる。
「ラッキーだったよね」と咲彩さんも顔を見合わせる。安心できるリノベーションだったことが、ふたりの背中をすっと押したようだ。
まるで北欧な配色センスは、あの「MIDORI.so」ゆずり?
「家に帰ってきて、『やっぱりいいよな』って感じるのは床ですね」とは秀幸さん。「中古リノベ物件のいいところは、自分たちが汚したり傷つけたりしてもぜんぜん気にならないこと」と、無垢材のしつらえと、住み継いだからこその住みよさを噛み締める。
咲彩さんも、「摩擦が少ない無垢材の床は、息子がハイハイしてもアザができにくくて安心です」と続けながら、「ただ、木の面積が広すぎて“小屋感”が強いリビングのデザインバランスは、あまり好きじゃなかったんです」と打ち明ける。
そこで、前の住人の趣味と感性が染み込んだリビングに、ふたりはまず色を塗った。木の面積としっかりバランスを取るよう匙加減を意識しながら、ふたりの“好き”を存分に注いだ結果、黄色、紫、白、ピンク、と実に賑やかに。
「黄色のカラーリングは、デンマークに住んでいるとあるライターさんの家の壁をマネしました(笑)彼女の発信していることや着ている洋服も大好きで、以前からインスタでフォローしているんです。あと、私の職場であるMIDORI.soからもかなり影響されています」(咲彩さん)
都内に複数あるMIDORI.soの全拠点を行脚し、インスピレーションを受けたふたりは、住まいづくりや色の使い方におおいに参考にしたのだという。
「僕も一緒に回って、かなり刺激を受けました」という秀幸さんを横目に、「洗脳したんです」とうすら怖いことを真顔で言う咲彩さん。
「廊下がピンクなんて、以前までの彼なら絶対NGでした。でも、MIDORI.soのイベントに連れて行ったり、一緒に全拠点を回らせたりしていたら、ここに引っ越したときにはもうそういうのもすんなり受け入れてくれるように。内心、シメシメと思っています(笑)」(咲彩さん)
コミュニケーションが生まれるダイニング
共働きで子育て中ということもあり、夫婦水入らずの時間はそれほど多くないという。だからこそ、子ども用のインテリアや日用品、おもちゃなどは、毎晩こまめに片付け、住まいをリセット。すると、気持ちも落ち着くのだとか。
また、夕飯を必ずふたりで食べることも、ふたりの時間のために日頃意識していることだという。「なにがあっても、必ずです」と、秀幸さんは冗談っぽく念を押す。
「仕事が長引いて、帰りが22時くらいになることもザラなんです。でも、いつもご飯を作って待っていてくれて」(秀幸さん)
「別に、健気だからとかじゃないんですよ?(笑)もちろん、自分で作ったものをひとりで食べても味気ないっていうのも、ちゃんと家族で食卓を囲みたいっていうのもあります。でも半分は、一緒に食べれば、そのあとふたり分の片付けをやってもらえるから(笑)まぁ、それが結果的にふたりでコミュニケーションを取る時間になっていますね」(咲彩さん)
そんな食卓には、いつも、咲彩さんのお母さんが作った器たちが並ぶ。咲彩さんがまだ小さい頃から趣味で作陶を続けている彼女は、いまでは茨城県笠間の窯元に認められ、好きなときに好きな釉薬を使って陶器を作れるまでになったという。
作った陶器をおりに触れて持ってきてくれたり、咲彩さん自身が長年実家で使っていたものを持ってきたり、リクエストして好み通りに作ってもらったりもするのだとか。
「母の作る、とくに荒々しい器が大好きで、そうした器に盛ると料理もいっそう美味しくなる気がするんです」(咲彩さん)
色にあふれた暮らしは豊か
さまざまな色をふんだんに、住まいのいたるところに取り入れながら暮らす野崎さん一家。色の多さに心がざわつくどころか、むしろ不思議と落ち着くリビングには、どっしりと構える無垢材の存在がある。そして前の住まい手によるリノベーションを受け継ぎながら、自分たちらしいバランスに作り替える咲彩さん、新しい感性をそっくり受け入れる柔軟な秀幸さんがいる。
「部屋がカラフルだと、明るい気持ちになりますよ。疲れていても、『やっぱりいいな〜』って」と、秀幸さんはさらりと話す。
「色に囲まれた暮らしは豊かだ」なんて一般論だが、目の前にある彼ら家族のこぼれる笑顔が、それをあまりにもリアルに訴える。
- Photo/Hiroyuki Takenouchi
- Text/Masahiro Kosaka(CORNELL)
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