小さくて、少なくて、だから豊か。整理収納アドバイザーならではの、逆転の発想。
せっかくなら大きく建てたい。部屋もたくさんあって、収納たっぷりの住まいがいい。その方が豊かに暮らせると、そう考えるひとは多いだろう。たしかに、大は小を兼ねるし、それはそれのよさもある。でも、その反対側は? 小さければ、物足りないだろうか。少ないことは、寂しいだろうか。そうした住まいや暮らしについて、樋口さん一家に教えてもらった。
- 樋口 里衣(「樋口のおやつ。」代表)
- ひぐち・りえ|5年前、夫・裕政(ひろゆき)さんの地元に家を建て、息子のレンくんと3人で暮らす。2023年には「樋口のおやつ。」をスタート。白砂糖を使わず、国産米粉でつくる“子どもから大人まで楽しめる米粉のやさしいおやつ”を、主にイベントなどで出張販売する。整理収納アドバイザーの資格も持つ。
- Instagram - @satori.home
キッチンからリビングまで、隔たりのない空間。
子育てや仕事のかたわら、焼き菓子をつくり、イベントなどに出店している里衣さん。もともと趣味だったお菓子づくりだが、義姉と二人三脚を組むかたちで、「樋口のおやつ。」の屋号をかかげるにいたったという。
マフィンやパウンドケーキなど、定番のラインナップは12種類ほど。群馬県や埼玉県のファミリー向けイベントへの出店が多いのは、おもに米粉やきび糖など、からだにやさしい素材を使っているから。また、季節の野菜や地の物を使うのもこだわりのひとつ。
「父親が育てた野菜や、知り合いの農家さんに頂いた規格外の野菜など、身近なところから手に入れた食材を使い、新しい味をつくってみることも多いんです」
販売用の焼き菓子はシェアキッチンで制作するが、そうした試作のときや、家族や友人用につくるときには、自宅のキッチンの作業台を使う。どっしりと存在感がありながら、直線的でシンプルな出立ちの作業台は、洗い物を一時的に避けておくためや、ちょっとした書き物などをするときなど、料理以外にも広く役立つスペース。
ちなみに、キッチンからリビングにかけては、扉や壁に隔てられずひと続き。なんどきも目が離せない時期の子育てには最適で、また、「いまは息子がお手伝いにハマっているので、一緒にお米をといだり、朝ホットケーキを作ったり」と、そうしたことが自然と遊びの延長になりやすいのは、隔たりのない空間デザインのなせるワザかも。
あえて、小さく、少なく造る。
画家としても活動する裕政さんが使うアトリエ、キッチン、リビングダイニング、そして寝室まで、縦に連なる細長い構造の住まいは、同じく細長い土地に合わせた形だが、あえて、土地いっぱいを使い切らなかったという。
「この辺りには、土地が広く大きな家が多いですが、そのぶん掃除が大変だったり、部屋が余っていたりなど、そういう声も聞こえていました。その頃はまだ旦那さんとふたり暮らしだったので、小さく建てるのもいいかなと思って」
また、小さく建てるだけにとどまらず、収納や、壁や扉もできるだけ少なくしたのには、整理収納アドバイザーの資格を持つ里衣さんならではの発想もにじむ。
「もともとは物持ちだし、溜め込むタイプでした。以前引っ越しをしたとき、消費期限切れの食材が冷蔵庫の奥から出てきたり、服が多すぎて困ったり、持ち物をぜんぜん管理できていないことに気づいたんです」
収納を増やしてしまうと、そのぶん、どうしてもモノを持ちすぎてしまう。ならばと不便は顧みず、造り付けの収納を極力つくらないように決断したのだった。
とはいえ、たとえばキッチンの下に何もない空間を残すことで、必要なときに必要なぶんだけ、あとから収納を足せるように。要らなくなったら、また減らせばいい。自分たちで足し引きしながら暮らせるように、あちこちに余白を残してある。
壁を白で統一したのも、「あとあと自分たちや暮らしの変化に応じて、変えやすいように。白なら何色にでもしやすいので」と、小さくつくるの一環であることを窺わせる。ラワンとモルタルなど、使われる材も少なめで、梁を使わず強度を保つ天井の構造なども、しかるべく、すっきりシンプルだ。
住まい自体がプライベート空間だから。
アトリエに面した東向きの大きな窓からは、太陽が燦々と差し込む。そこは裕政さん念願のスペースで、玄関から直接、大きなキャンバスや画材を運び込みやすい設計になっている。
「ここは高台にあり眺めもいいので、家のなかで一番気に入っている空間です。夏は花火が見えるし、秋は紅葉を楽しめます」(裕政さん)
眼下には畑が広がるから、季節おりおり、豊かな色彩が飛び込んできそうだ。
このアトリエも、漏れなく扉で仕切られていないが、「制作しているとつい集中しすぎて、戻れなくなっちゃうので(笑)」と、閉鎖されていないくらいがちょうどいいと話す、裕政さん。
「実家では、家族それぞれの部屋があるのが当たり前で、そうした固定概念がありました。でも、住まい自体がプライベート空間なわけだから、それをさらに細かく仕切る必要も無いんじゃないかって。扉や部材を減らしながら暮らすことのよさに、妻のおかげで気づきました」(裕政さん)
“小さい”から生まれる、余白や豊かさ。
住居も、収納も、色も材も。おしなべて小さくする選択を重ねた樋口さん一家。すると少なく持つようになり、それがしかるべく、暮らしの豊かさにも繋がっているようです。
「住まいに収まる分だけ持つと、目に見える量になります。そうなると、『あの辺にアレがある』とか『アレはいまこれくらい残っているな』というふうに頭で把握しやすくて、暮らしがうまく回るようになりました」
そして裕政さんも、「選択に迷う時間が減ったと思います。だから、自分の好きなことにもっと時間をかけられる。制作に集中したり、“ながら”じゃなくゆっくりコーヒーを楽しんだり」と続ける。
そんなふうに、小さく住まうことの心地よさを実感しながらも、一方で、「いろんなものごとに触れたり観たりするのも、やっぱり好きなんです。とくに息子には、いろいろ買ってあげたいし、経験させてあげたい。モノや色に溢れているのも、大切で素敵だし」と、整理や収納にとらわれすぎない、子どもの未来に想い馳せる里衣さんもいた。
- Photo/Sana Kondo
- Text/Masahiro Kosaka(CORNELL)
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