アメリカンガレージ。本場の情緒を感じる日米融合の空間。
ガレージと言えばで思い浮かぶアメリカンガレージのそれ。しかし、今回の吉岡さんはひと味違うアメリカンガレージを作り上げている。それはカントリーやファーマーズの雰囲気を漂わせ、現地を肌で感じたからこそのこだわりが詰まったもの。仲間や友人、家族とも過ごす大切な場所であり、各所メディアからも注目を集めるガレージを覗いてきました。
- 吉岡 浩司さん(会社員)
- よしおか・こうじ | 職業柄出張で訪れることが多いアメリカ・アリゾナやテキサスをイメージしたガレージを完成させたDIYのスペシャリスト。6児の父であり、欧州フリークの父を持つファーマーズガレージオーナー。
- Instagram - @u.s.dream
日本の米農家×アメリカの西部劇に登場しそうなガレージの融合。
元々は築100年を超える古い納屋であったこのガレージ。吉岡さんの祖父が農具用器具を収納していたものを、自身でカスタマイズしていったのがキッカケだそう。「わが家があるのは祖父がお米を作っていた土地で、ガレージは農具が仕舞ってあった納屋。2014年頃から手を加え始め、その時期その時期で姿を変えながら2021年に完成と言ってもいい形に落ち着きました」
すべて吉岡さんのDIYにより形をなしているこのガレージは、その繊細さにまず驚く。クオリティはプロ顔負け。「ここは業者さんですよね?」「あそこはさすがにご自身ではないですよね!?」という問いに対する答えはいつも「いえ、あれもこれも自分です」
DIY好きになったルーツを聞くと、「小さい頃から自分で物をいじるのが好きな子供だったし、工業高校出身なので工具や資材に抵抗がありませんでした。いまは航空機関連の職に就いていることもあって、細かい測定や作業に馴染みがあるのも功を奏しているかもしれませんね」と教えてくれた。
航空機の精密さや精度の高さを知っているため、建築の設計や施工を物ともしないのだろう。そしてこの空間づくりに欠かせなかったのがアメリカへの愛。
「アメリカがとにかく好き。だから、アメリカ人に根付いているDIYの文化も踏襲しようという思って」と、どこまでもアメリカに心を奪われている様子。
「職業柄、アメリカへの出張も多かったので、アリゾナやテキサスを回って本場のガレージを見て興奮していましたね。現地の空気感やリアルさ、情報もそこで収集して、それを持ち帰って自分のガレージに落とし込む。うちも農家だったことからアメリカのファーマーズにシンパシーを感じていて。だから、ガレージはファーマーズを感じさせる作りにしています」
コーヒーもアルコールも似合う。大人も子供も遊べるガレージ。
住まいである母屋と同じ敷地内に構えるガレージは、仕事仲間や仲の良い友人、家族との憩いの場で、リラックスタイムを過ごすスペース。「四季によってそれぞれの過ごし方を楽しんでいます。春はのんびりお花見、夏は水浴びやBBQ、秋はコーヒーを相棒に読書、冬はストーブや焚き火で温まる。『とても快適!』という訳ではないけど、ひと手間や過程を味わう楽しさがあるんです」
「朝昼はコーヒーが似合うけど、夜はアルコールも合うんです、ここ」。そう話すように、朝昼晩とどの時間帯もふらっとお客さんが訪れるそうで、それがこのガレージの居心地の良さを物語っている。「コーヒーを飲みに来るだけとか、仕事の打ち合わせをしたりとか、皆さん何かと足を運んでくれます。イベントの打ち上げも何十人と集まって、ここでいつもしていますから」。人が集まる場所には総じて魅力的な雰囲気が漂う。このガレージもオーナーの想いや完成度の高さで人を魅了しているに違いない。
「何もない休日はクルマやバイクをいじったり、モノづくりに勤しんだりと、ひとりで遊べてしまうのもガレージの魅力ですよね」。多くの男性のあこがれであるガレージライフを満喫しつつ、しっかりと子供用の遊具をこしらえるあたりが、吉岡さんの素晴らしいところだろう。
アメリカを夢見た少年が再現したリアルなアメリカンガレージ。
完成度の高さを追求するこだわり、溢れ出るアメリカの雰囲気の源、吉岡さんをここまでに至らしめた原点はどこにあるのか?
「やはり父親でしょうね。幼少期からいろいろなコレクションを間近で目にし、物はもちろん映画や作品など、とにかく影響を受けました。子供らしいおもちゃに興味を持たなかったくらいで。とは言っても父親はヨーロッパフリーク。こだわりや知識量では勝てないと幼心に感じたのか、自分はアメリカにハマりました(笑)」
80〜90年代の映画で目にするTHEアメリカに“やられた”という、吉岡さん。西部劇に出てくるダイナーやバーに目を奪われ、西海岸や東海岸のアメリカではなく、埃舞うカントリーやファーマーズが特に好きになったそう。
「アメリカのバンドや乗り物、文化がとにかく好きでした。ローライダーを始め、スノボにハマったり、HIPHOPも聴き漁ったり、ハーレーはもちろんですね。現地出張に行くたびに憧れからライフスタイルへと変わっていきました」
そして影響を受けるだけではなく、自宅のインテリアに取り入れることでオリジナルに昇華するまでに至った現在。「山と川のある愛知県一宮市でできるリアルなアメリカを作りたかった。白い西海岸テイストにしようかとも考えたけど、海がないこの場所ではリアルではないかなと思って」
外観は瓦屋根にトタンの外壁と、納屋の面影を残しているが、そんな日本らしさをうまく“アメリカ”とブレンドしているのが吉岡さんのガレージの魅力のひとつ。
「雑誌を見た人や知り合いのアメリカ人から『どうやって作っているんだ? 』と興奮して聞かれたこともありますね」。本場のファーマーズガレージオーナー達さえも虜にしているようだ。
模倣やコピーにはない、オリジナルの魅力が人々を惹き付ける。
こだわりのアメリカンガレージの隣には、実はもう一棟のガレージがある。「クルマやバイクをいじりながら、くつろげるスペース。そんな理想を追い求めていたら、新たにまたひとつ欲しくなって」とこちらは作業に特化した場所のようだ。
49㎡の床は全面がコンクリート。中二階設計で当然D.I.Y.で仕上げられている。
「元々は一緒だった作業スペースとくつろぎスペースを完全に分けたのが今のスタイル。旧ガレージは鑑賞・くつろぎガレージ。新ガレージは作業ガレージという具合です」
うまく使い分けながらガレージライフを存分に満喫している吉岡さん、まだまだ理想の飽くなき追求は続くのだろう。
完成はないのがガレージ道。されど好き好きで自由なガレージ道。
既に十分過ぎるほどガレージライフを満喫している吉岡さん。次なる野望を伺うと「近隣の土地を購入して一帯をガレージゾーンにしたい。リノベーションを施したカフェをやったり、キャンピングカーのカスタムを生業にしたり、好きを本業にしようかなとも考えているんです」。
「キャンプも好きなのでエアストリームを購入して山で牧場したいなとかも漠然と思っています。農場でモトクロスを乗り回す。そんな中年も良いかなと」。夢は膨らむばかり。いや、吉岡さんなら実現させるのかも知れない、近い将来に。
「好きだから工夫する。財力で叶えてきたわけではないですから。子供たちにも農業や薪割り、自給自足的な暮らしを通じて、自ら手を動かすことの大変さを教えているつもりです。物がある有り難さも学んで欲しいですから」
最後にガレージを子育てにもリンクさせる吉岡さんにとって、ガレージがどんな存在なのか尋ねてみた。「答えはないですよね。好きでいい。楽しければいい。それがいいですね」
理想を追い求め、試行錯誤を繰り返しながら、姿を変えていくガレージがそこにある。
- Photo/Makoto Kazakoshi
- Text/Masayuki Kobayashi
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