“暮らし”に軸足を置いた、外遊びなクルマと開放的な家。
jonnlynxデザイナー・ディレクター/林 真理子さん
日々の生活の中で「家」という居住空間はもちろんですが、充実したライフスタイルを送る上で「クルマ(愛車)」も欠かせない存在。そんなクルマが家にとってどのような立ち位置なのか。両者の関係性にフォーカスし、それぞれの“モノ選び”の基準について話を伺います。今回訪れたのは、ファッション業界の第一線で活躍する林 真理子さんのもと。
- 林 真理子(jonnlynx デザイナー)
- はやし・まりこ|セレクトショップのプレス、デザイナーを経て2008年に独立。現在は自身のファッションブランド<jonnlynx(ジョンリンクス)>のデザイナー・ディレクターとして活躍中。趣味はサーフィンとスノーボード。
- Instagram - @mariko__hayashi
いつも外で遊んでる分、家も同じぐらい開放的な空間がいい。
「昔って、片面印刷の新聞折込とかあったじゃないですか? 私、その真っ白な裏紙が好きすぎて、それを見つけてはよく“イルカ人間”を描いて遊んでました。兄と一緒に外を走り回ったりもしてたけど、私の記憶の中ではずっと絵を描いてたような」
そう振り返るのは、ファッションブランド〈jonnlynx〉でデザイナー・ディレクターを勤める林 真理子さん。彼女がいう“イルカ人間”とは、幼少時代によく描いていたキャラクターのひとつで、擬人化したイルカたちに洋服を着せ、さらにその家族の物語まで作っていたというのだから驚きだ。
「幼いながらも、頭の中に思い描いたことを絵で表現するのが得意だったんだと思います。今でこそ“描きたい”という感情だけでペンを握ることは無くなったけど、絵で何かを伝えるっていうのはその時と変わらず、デザイン画を描くときに当時の遊びが活きてたりするのかな、なんて思ったりも……」
そんな幼少時代の遊びとは相反し、仕事のない日はスノーボードにサーフィンと、アウトドアアクティビティに傾倒。
「よく鎌倉にいるので“海沿いの暮らしいいですね”って言われることが多いんですけど、それは大きな誤解で。家から鎌倉までは、クルマで大体1時間。もちろん、海沿いに住んでいればもっと気軽にサーフィンできるんだろうけど、サーフィンを始めてから20年ぐらいこのスタイルなので、海までの移動がそこまで苦じゃないんです」
都内にある職場と鎌倉の海まで、林さんの住まいはそのどちらにも行きやすい中間地点にある。
「職場に近ければ居心地はどうでもいいみたいな、“家には寝に帰るだけ”って人が結構いるじゃないですか。私、その考えに全く同意できなくて。じっとできない人と思われがちなんですけど、家での時間も好きなんです。なので、たとえ通勤時間が長くなっても家選びにはこだわりたい。広い部屋がいいっていうのが前提にあったので、必然的に都心からは少し離れて。
実は20代の頃からずっとこの辺りに住んでたので、このマンションは引っ越してくる随分と前から知ってました。この風通しの良い空間に、いつか住めたらなと。外で遊ぶことが多い分、家もやっぱり同じぐらい解放的じゃなきゃ嫌なんですよね」
眼下に広がる緑に癒されて。
「家で過ごしているときは、ここでのんびりしていることが多いです」と腰を下ろしたソファーは、日本の家具メーカー<MINERVA(ミネルバ)>のもの。西洋家具を規格・デザインを変更したもので、「座り心地はもちろん、肌触りも良いんです」とお気に入り。「何より、ここから見える景色も最高なんです」と話を続ける。
「海は散々っていうほど見てるので、日常で見るなら山がいいなって。窓から緑が見えるところっていうのも、家を選ぶときの大事な条件でした」
あたり一帯は、緑豊かな小高い丘。開放感もさることながら街の喧騒とも程遠く、部屋の中は木々の揺れる音。小さく鳴くセミの声が季節の変化を感じさせる。
「実は、緑豊かな逗子に戸建を建ててみるのもアリかなって考えもあったんです。でも、“もし、逗子とここで迷ってるのなら、それぞれのメリットとデメリットを書き出してみたら?”と友人に言われ……。楽しい想像をたくさんできたのは、正直逗子でした。けれど、職場までが遠すぎるのもあってデメリットもそれなりに。
一方、こっちは築年数が40年以上経ってるぐらいしか、デメリットがなく。ここを選んで正解でした。全然後悔してないし、今のライフスタイルにも合ってるかなと。ただ、このマンションの内装をリノベーションするときはワクワクしましたし、家づくりは楽しかったので、いつかは戸建てもいいなって思いますよね」
ライフスタイルに合わせて選んだ愛車、ボルボV90クロスカントリー。
デザイナーとして自らの世界観を“魅せる”ことを生業にしている林さん。自身がモノを選ぶ立場になったときは、どんなことを意識しているのだろうか。
「悲しかったりとか、辛い気持ちに寄り添うものづくりじゃないけれど、そういう物事に心を掴まれる瞬間が多くて。“じゃあ、どれが?”って聞かれると、“これがね”っていう話ではないんですけど、その時その場所の空間に馴染み、それでいて温かみのあるモノが素敵だなって思います」
「自分が洋服をデザインする上でも意識していることなんですけど、アールトが言うように、“身のまわりにあるデザインや形あるものは、人間の光と影に寄り添えるよう適切で誠実に作られたものであるべき”だと思うんです。ハッピーな側面だけじゃなく、悲しみや辛い気持ちにも寄り添って作られたモノ。今の言葉でいう“エモイ”じゃないけれど、何かそのような感じ。以前乗っていたクルマもそれに近いことを感じてました」
現在の愛車は、ボルボV90。話によれば、ボルボを愛車として迎え入れるのはこれが3台目になるんだそう。
「初めて手にしたボルボは、S80。その前に乗っていた日産テラノが2ヶ月ぐらいで壊れちゃって、あまりにも可哀想だからと知り合いが安く譲ってくれたんです。トランクスルーだったので、セダンなのにロングボードもラクに中積みできて、サーフィンとの相性もよかったんですよ。
次第にボルボの乗り心地にも惹かれるようになって、次は少し古いクルマに乗ってみようかなと。それで98年式のS90に乗り換えました。別にヴィンテージが好きってわけじゃなかったんですけど、角ばったクラシカルなフォルムがそのときカッコよく感じていたんです」
「でも、子供が生まれるとクルマを選り好みしてちゃいけないなと思うようになって。というのも、海とかに行くと炎天下にクルマを長時間停めるわけじゃないですか。サーフスポットの駐車場って屋根が必ずある訳じゃないので、車内がすぐ暑くなっちゃうんです。クーラーはちゃんと効いてたけど、とはいえ古いクルマ。環境にも優しくないですし、年々気温上昇している中でこのままS90に乗っていては流石に子供に良くないなと。それで、現在の愛車V90クロスカントリーに乗り換えました」
ディーゼルで四駆。これが絶対条件でした。
「V90を選んだ理由として、一つは優れた走破性。路面がガタついたビーチでもそうなんですけど、冬になるとスノーボードをしに雪山にも行くので、そんな悪路でも頼りになるクルマじゃなきゃダメだったんです。また、片道300キロの移動とかよくするので、ディーゼルであるというのも絶対条件でした。その中で、子供が安全かつ快適に乗っていられるクルマってなると、選択肢は自然と絞られていきましたね。先ほど角ばったフォルムがって言いましたけど、実は流線形のクルマも好きなんです。シトロエンも好きで以前乗っていたし、シェルビー・コブラなんかも永遠の憧れです」
逗子での暮らしに妄想を膨らませながらも、ビジュアル重視のクルマ選びから、今のライフスタイルに合わせた住まいと、家族との暮らしに寄り添った一台に。
林さんのモノ選びを見ていると、かつてアールトが追い求めていた「人の生活が中心にあるべき」という建築像に通ずる思想を感じずにはいられない。
- Photography/mariko kobayashi
- Text/GGGC
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