- 鈴木里美さん(OZ VINTAGE オーナー)
- すずき・さとみ|都内のヴィンテージショップで10年以上勤務したのち、出店型のショップ「FUROL」をスタート。2018年に渋谷にて「OZ VINTAGE」をオープン。買い付けから接客までひとりで行っている。
- Instagram - @oz.vintage
気の利いたディティールが随所に光るユニークな間取りの1LDK。
都内の老舗ヴィンテージショップや出店型の「FUROL」を経て、現在は「OZ vintage」をひとりで切り盛りする鈴木さん。7年ほど前、職場にアクセスの良いエリアを巡り、20軒近く内見をしていたところ出合ったのが、築40年を超える1LDKのこの物件だった。現在、パートナーと保護猫のこまおとここで暮らしている。
「部屋探しで大事にしていたのは、日当たり、仕事への行きやすさ、あとはインスピレーションでぐっとくるかどうか。いろんな家を見にいきましたがどの家もピンと来ず、ああでもないこうでもないと言っていたら、ネットに出ていない老舗の不動産屋さんの持ち物件だったこの家を紹介してもらったんです」
日差しが降り注ぐ大きな窓に、丁寧に設えられた造り付けの棚。四角い部屋がなく、低い天井の2階部分があるメゾネットのようなユニークな間取り。「ひと目で気に入って、ほぼ即決でした」と鈴木さんは部屋を見渡す。
「大家さんが『工務店をやっている息子につくってもらった家だ』とおっしゃっていました。メゾネット部分がかろうじて四角い部屋なのですが天井がかなり低くて、住む人によっては難あり物件かもしれませんね。でも、気の利いたディティールが多く、ほどよくデザインされていて、私にとっては過不足なく暮らしやすい空間です」
大家さんが住んでいた頃はグランドピアノが置かれていたというこの部屋。その搬入出のために大きな窓が設計されたらしく、鈴木さんはそれを活かして大きな家具を窓から運び込んだ。
「大家さんとその息子さんが意図してつくったものを、私がまったく違う解釈をして別の用途で使っていて。造り付けの棚も、人によっては自分で家具を選びたいと思うかもしれないし、そもそもこんなに収納が必要ないという人もたくさんいると思うんです。でも、私にとってはちょうどいい。もともとあるものが意外とフィットしていますし、DIYで手を加えてさらに私のスタイルに合わせていっています」
造作家具×DIYで実現した、空間にぴったりハマる収納。
DIY好きが高じて、引き出しだけでなく靴棚も自作した鈴木さん。その横の棚も手づくりで、カゴを使った「見せる収納」のセンスが冴える。
「無機質なものや滅多に取り出さないものは隠したくて。季節家電やコレクションしているTシャツを扉付きの造り付け棚に収納しています。仕事柄、服に限らず収集癖があって、その中でも特にカゴが大好きなんです。大量に集めていて、貴重なインディアンバスケットたちも実用して毎日愛でています」
階段脇の3畳の部屋はクローゼットに。打って変わってこちらは「隠す収納」だ。
「大きく衣替えをしなくてもいいようにレイアウトして、パートナーと私の2人分の服をおさめています。仕事柄、洋服はかなりの量を持っているので、季節ものは倉庫に置いてあるんです。レギュラーの服だけこのクローゼットに収納しています」
洋服と同様、アクセサリー類も使用頻度を考えて収納。レギュラーでないものはアクセサリーボックスにしまい、日常使いするものは玄関脇のプレートとアクセサリースタンドに置いている。アクセサリーだけでなく、インテリア小物もよく入れ替えては、休みの日に配置を考えているのだそうだ。
「ものを選ぶことに関してはプライベートも仕事も境がなく、お店もこの家のような雰囲気なんです。洋服に限らず、買い付け先で気に入ったものはどんどん集めています。店にものが増えすぎたら持って帰ってきているのですが、家に置くのであればしっくり来るところに置いて気に入った空間をつくりたい。だから、休みの日になると家にあるものの配置をずっといじっています」
個性豊かなエピソードを持つお気に入りのアイテムたち。
空間づくりにおいては、これといったテイストが決まっているわけではなく、アイテムそのものに惹かれるかどうかがセレクトの基準で、「もちろん新しいものもたくさんあるのですが、惹かれるのは不思議と古いものなんです」と鈴木さんは言う。
「家のインテリアに関しては、年代はバラバラなのですが、やっぱり古いものが好きというのが土台にあります。買い付け先やセカンドハンドで見つけることが多く、旅先でも必ず中古品やアンティークを扱うお店に足を運んでいます」
さまざまなアイテムの中で特に思い入れがあるのは、ジョージ・ネルソンのバブルランプ。いまでは便利できれいなリプロダクトもあるが、オリジナルやヴィンテージにとりわけ魅力を感じるのだという。「いつか欲しい」と思い続け、去年アメリカに買い付けに行った時に出合うことができた。
「車を運転していろいろなところを回っていたのですが、なんの収穫もなく疲弊していた時に、おじいさんがひとりでやっている小さなアンティークショップで見つけたんです。円安がピークだったので、日本で買うのと金額的に変わらないかも……と悩んでいたのですが、おじいさんが『そんなに悩んでいるなら』とまけてくれたので買うことにしました。送料だけでも4万円くらいかかってしまいましたが、ずっとほしかったものを手に入れることができて満足しています」
ドイツのインダストリアルデザイナーであるインゴ・マウラーの壁掛けラックも、鈴木さんが20歳の頃から「いつかほしいな」と思っていたアイテムのひとつ。
「ほしいとは思っていたのですが、インテリアを整えていくうえで壁掛けラックにまで手が回らず、気づいたら値段が3倍くらいになっていて(笑)。わざわざ買わなくてもいいかもと思って布の収納などを掛けていたのですが結局気に入らなかったんですよね。だったらずっと頭の片隅にあったこのラックを買ったほうがいいなと思って、海外から取り寄せました」
空間をつくるうえで、「どうしても木の素材が増えがちだけど、少し違った素材もほしかったんです」という鈴木さん。マジスのサイボーグチェアはそんな鈴木さんの思いに最適のアイテムだった。
「つるっとしたポリカーボネートと籐が使われているのですが、籐があることでほかの家具と調和が取れてインテリア同士を繋いでくれている気がします。考えて買ったわけではないのですが、結果的に違和感なく馴染んでくれました」
きれいにまとまりすぎない生活感も◎。欠点を好きになる空間づくりを。
コンパクトな空間ながら個性豊かな椅子やソファが配置され、居場所がたくさんあるリビングダイニング。友人たちが集まることも多く、鈴木さんは「大人数で遊びに来た時に過ごしやすい空間にしたいんです」と話す。
「最初はテーブルに座ってごはんを食べるんですけど、ぽつぽつとソファに移動し始めたり、テーブルに残って深い話をし始めたり……でも、最終的にみんな床に座り始めるんですよね(笑)。みんな思い思いに過ごしてくれています」
壁や棚には手描きのイラストや写真も飾られており、友人や家族の声が聞こえてくるような人のあたたかみが感じられる。
「きれいにまとまりすぎたり、生活感がなかったりする空間より、少しおもしろくするほうが好きなんです。お客さんの子どもや友達が描いてくれたこまおの絵や、家族や友人の写真を飾っています。思い出になるような写真はスマホで見るよりいつも目のつくところに置いておきたいんですよね」
少し変わったつくりのこの家に対して鈴木さんは「欲を言えばキリがない」という。でも、そんな家だからこそとても愛おしい。
「本当は寝室も天井がもっと高ければいいなと思いますし、ベランダもものすごく出づらくて。倉庫としてもうひと部屋ほしくてほかの物件を見ることもあるのですが、この家への思い入れが強くなってきて、結局ここがいちばん好きだなと実感します。欠点を愛し、工夫して部屋を生かした空間づくりをしていきたいです。 自分たちはもちろん、猫にとっても、訪れる友人たちにとっても心地いい場所になるように整えて、これからも日々の思い出を紡いでいきたいです」
- Photo/nae.jay
- Text/Aiko Iijima
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