振り向けば、海。開放的なガラス窓のamadana baseを事務所兼カフェに。
吹き抜けと大きなガラス窓の開放感と、住む人の趣味を広げる“好き間”のスペース。デザイン性と暮らしの両方に妥協なくつくり上げた「amadana base」を住まいではなく、デザイン事務所兼カフェとして活用している企業がある——。そんな噂を聞きつけ、事務所の代表である石川竜太さんにお話を聞きに伺った。
- 石川竜太さん
- いしかわ・りゅうた|新潟を拠点とするデザイン事務所「フレーム」の代表。ロゴやパッケージデザインのみならず、クライアント企業のブランディングから携わる。著名なデザイン賞を数多く受賞し、ロゴのデザイン術をまとめた著書『毎日ロゴ』を上梓。
- Instagram - @ryuta_frame
デザインを身近にするため、事務所の1階をカフェに。
今年6月、新潟市中央区に新オープンしたカフェがある。名前は「prefix coffee stand(プリフィックス・コーヒースタンド)」。同じく中央区にある鳥屋野潟公園に朝の時間帯のみ出店するコーヒースタンドから始まり、常設の店舗は今回が初めてのこと。日和山浜海水浴場に程近い、絶好のロケーションに店を構える。
ビーチまでは、ほんの数分。ガラス張りのエントランスからも、白い砂浜と青い海が見える。この開放的なガラス窓を備えた建物は、趣味やこだわりを最大限楽しめる“好き間”をコンセプトに生まれたamadana base。
外観と吹き抜けの開放感はそのままに、住宅として設計された空間をアレンジ。2階は建物の持ち主であり、新潟を拠点とするデザイン事務所・フレームのオフィスとして機能している。フレームの代表を務めるのは、新潟生まれ・新潟育ちの石川竜太さん。新たなオフィスにamadana baseを選び、1階にカフェを設けた理由は何だったのか。
「事務所の移転にあたり、最初は中古物件をリノベーションするつもりだったんです。でも、デザインに納得のいく規格住宅があるなら、それを活用したほうが効率的。amadana baseの存在を知り、これならいける、と。反対にカフェを設けることに関しては、当初の予定どおり。デザインを身近に感じてもらえる場所をつくりたくて」
ドリップの場所は、“好き間”を広げるカウンター。
デザイン事務所の1階に設けられたカフェは、デザインを身近に感じられる場所。2階のガラス窓の向こうではスタッフがパソコンに向かってはデザインを練り、1階のカフェには造作の大きなブックシェルフ。この本棚にはフレームがパッケージデザインを手掛けたアイテムだけでなく、デザインに関連する書籍も並ぶ。
「ロゴにしてもパッケージにしても、皆さんの生活に密着したものですよね。それなのに“デザイン”という言葉を用いた途端に、どこか遠い存在のように思われてしまう。これはデザイナーという職業も然り。ファッションデザイナーならイメージがつきやすいものの、僕たちの仕事って、想像しづらいと思うんです」
デザインという仕事を身近に感じてもらうべく、石川さんはさまざまなことに取り組んでいる。自社が手掛けたデザインを展示する展覧会を開いたり、一般の人も参加できる講演会に登壇したり。さらには新潟市秋葉区の新津美術館に「cafe2f」というカフェまで出店。そのカフェにも、フレームが手掛けたロゴやパッケージが展示されている。
「そうした取り組みをしたところ、意外にも多くの人がデザインに興味を持っていることに気づかされました。興味を持っている人はいるのに、デザインについて知れる場所があまりに少ない。だったら、デザインが生まれる場所であるオフィスの一部を開放してしまえばいい。これが『prefix coffee stand』に入居いただいた理由です」
カフェが入居するにも、amadana baseはぴったりの間取り。1階のフロア中央には用途を選ばないカウンターを標準装備し、バリスタはここでコーヒーを挽いては丁寧にドリップする。地元のコーヒー豆専門店「ルシュオーゾ」の豆を用いたコーヒーは香り高く、ほかに新潟県村上市の銘茶「冨士美園」の緑茶も味わえる。
ちなみに、カフェの本棚に並んだ書籍のなかには、購入をためらってしまいそうな高価な洋書もあるとか。でも、ここを訪れたならブックカフェさながらに閲覧自由。フレームのスタッフも頻繁にカフェを利用し、書籍も事務所との共有物。ときにはミーティングをすることもあるため、デザイナーという仕事の一端に触れることもできる。
開放的なガラス窓を生かした、「振り向けば、海」。
一方、2階の事務所スペースは、開放的なガラス窓を存分に生かしたレイアウト。白壁に向かうように一枚板のパソコンデスクを造作し、ふと振り向けば、窓の向こうに青い海の景色が広がる。さらには、窓を囲むようにL字型のデスクをプラス。集中してパソコンに向かった後には、海の景色を間近に息抜きができる。
「正直、海の景色に強くこだわったわけじゃないんです。でも、大正解の立地でしたね。集中と息抜きのメリハリは、仕事の上でも大切なこと。ずっとパソコンや資料に向かっていても、いいアイデアが浮かぶとは限りません。窓の景色を見たり、ベランダに出たり、カフェに降りていったり。スタッフのみんなも喜んでくれています」
海の景色に強くこだわったわけじゃない——。石川さんはそう振り返りつつも、新潟の魅力について尋ねてみると、答えは「四季がはっきりしているところ」。なかでも事務所のある新潟市中央区は、海際のロケーション。夏にはビーチレジャーを楽しむ人たちでにぎわい、海の帰りに1階のカフェへ立ち寄る人も増えているという。
吹き抜けの開放感に満ちた空間でこだわりのコーヒーに舌鼓を打ち、デザインの書籍も楽しめる「prefix coffee stand」。たとえ、今はデザインに関心がなくとも、その一度の経験が興味の“好き間”を広げるきっかけになるかもしれない。
- Photo/Takahiro Kikuchi
- Text/Kyoko Oya
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