庭に佇む古屋の正体。趣味も仕事も楽しめる手作りガレージ。
東京から湘南エリアの稲村ヶ崎に引っ越したことを機に、自宅の庭に理想のガレージを建てた池田紀行さん。自分の“好き”を形にしたというその建物は、古びたトタンと多様な植物に覆われた趣のある佇まい。趣味と仕事が同居する、こだわりと愛を感じる唯一無二のガレージライフを伺った。
- 池田 紀行(トライバルメディアハウス代表)
- いけだ・のりゆき|大手企業300社以上のデジタルマーケティングやソーシャルメディアマーケティングの支援実績を持つ株式会社トライバルメディアハウスの代表取締役社長を務める。業界誌への寄稿やセミナーへの登壇も行う。自著に『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)などがある。
- Twitter - @ikedanoriyuki
理想に近づけるために古トタンを自分の手で貼った。
池田さん一家が住居として使っている母屋の前に広がる大きな庭に、ぽつんと佇むガレージ。錆びついたさまざまな種類のトタンが外壁を覆い、青々とした植物が囲むその姿は、森深くに隠された秘密基地のよう。
「この土地を買って家を建てるときに、母屋は“ジャングルの奥に佇むサーファーズハウス”をイメージしていたんです。それに合わせて、もともと生えていた大きな木以外は全部植樹しました」。海沿いにジャングルを作るため、鎌倉の造園業者が持つ山に入り、気に入った木々や草花を購入したという。
「それに加えて、ワーゲンバスを守る屋根付きのガレージを作りたい、アメリカの西海岸にあるような大きな農場の廃れた古屋を建てたいという構想をずっと練っていたんです。私がイメージする雰囲気の建物を得意とする大工さんがちょうど鎌倉にいて、ガレージの設計をまるっとお願いしました」
その時池田さんの頭の中にあったのは、かつて東京・恵比寿にあった「ゼスト キャンティーナ」。トタン張りのファサードが人気のレストランだ。
「私が目指したい完成予想図を大工さんに伝えると、ご自身の倉庫から数十年前の民家で使われていた古トタンをたくさん持ってきてくれて。それがまさにイメージ通りで、すぐに『全部買わせてください!』と言って手に入れたんです」
躯体や屋根の建築は大工さんが手がけたが、外壁は池田さん自身が手作業で貼っていったというから驚き。
「DIYやモノづくりが好きですし、はっきりと作りたいガレージの構想やイメージを持っていたので、手作りにチャレンジしました。トタンを貼り終わって完成したあとに、周りに緑を植えたり、ベンチを置いたりして理想のガレージに近づけて行きましたね」
愛車の横には、生活に合わせて進化し続ける書斎を併設。
池田さんのガレージには、仕事机や本棚を備えた書斎も備えている。現在は、リモートワークや本の執筆といった仕事に欠かせない空間だが、当初は本を読んだりDIYの設計図を描いたりする趣味の場所という意味合いが強かったという。
「自分だけの書斎って憧れますよね。海外でよく見る、ガレージと書斎がつながっていて、自分の愛車を部屋から眺められる空間ってすごく素敵だなって。なので、収納を含めて、車が収まるサイズより大きめにガレージを作って、いろいろな作業ができる場所を確保しました」
「ガレージを建てたあとしばらくしてコロナ禍になり、リモートワークが増えた結果、当初考えていたより長い時間をここで過ごすようになったんです。思った以上に居心地が良くて仕事もはかどります。DIYも大きな木材を切ったり、組み立てたりする時は外で行いますが、細かいものはここで作っています」
過ごす時間が長くなるにつれ、仕事に必要な資料や書籍、DIYに使う工具を置く場所が必要になる。凝り性の池田さんは、Pinterestで「書斎」「大人の秘密基地」といったキーワードで検索し、イメージソースを集め始めた。
「最初は本棚を自分で作っていって、次第にスペースが足りなくなって、梁や柱に沿って棚をつけていきました。DIYだからこそ狭いスペースにも自由に作れますし、雑然としたラフな雰囲気もけっこう好きで。書斎っていうと整頓された綺麗な空間というイメージがありますが、そもそもガレージの中ですし、庭に緑もあって虫も入ってくるし、土足にしているので、神経質に綺麗に維持しようとしすぎないのがちょうどいい。私にはこっちがあっていると思っています」
物がたくさんあっても、本や工具、置き物などカテゴリごとに、きれいに配置されているので雑多に感じない。そこらじゅうに小さなアイデアが散らばっている。
「よく使う工具も飾りのひとつとして、見せる収納をこだわっています。ディスプレイの仕方やアイテムのレイアウトは妻が手掛けました。ある日、僕が仕事で東京に行って帰ってきたら『ちょっとこっち来て!ジャジャーン!』って見せられて(笑)。有孔ボートを壁につけて、定規をこんなふうに、レンチをこんなふうに、工具を並べる壁はアクセントとして黒の方がいいなど、お互いに話しながら完成形のイメージは共有していたんですが、僕がいない間に制作してサプライズしてくれました。嬉しかったですね」
趣味のロードバイクにも没頭できる最高の私的空間。
池田さんはDIY以外にも、ロードバイクやキャンプなどのアクティブな趣味を持っている。好きなことに没頭する場所として、このガレージが大いに活躍。ロードバイクのメンテナンスやキャンプ道具の収納はここに集約し、好きな時にアクセスできる。
「ロードバイクも気が向いたらすぐに触れるように、デスクのすぐそばに置いてあって。メンテナンスやパーツの交換を行う時は、手前のスペースに小さな椅子を出してもくもくと作業。ネジなどの細かいものはガラスの小瓶に入れて、本に並べてディスプレイしています。工具もそうですが、ラフなものほど“魅せ方”を大切にしています」
「キャンプも趣味で、フォルクスワーゲンバスにテントやタープ、テーブル、チェアなどひと通りのギアを積んで家族で出掛けていました。キャンプ道具は大きな物も多いので、ガレージの収納が本当に役立っていますね」
「と言いつつ……」と気恥ずかしそうに話を続ける池田さん。あんなに大好きだったキャンプだが、最近はあまり行かなくなったという。その訳とは。
「キャンプに行く必要がなくなった、というほうが正しいのかもしれません。東京に住んでいた頃は、いわゆる“東京砂漠”ってやつでカラカラに乾いていて、『自然に触れてリフレッシュしたい!』『焚き火を見て癒されたい!』って思ってキャンプに行っていたんです。でも、緑があふれるこの家に住んでから、『ここで十分!』って気持ちになって、キャンプする頻度は減りました。身近に自然を感じられるようになって、つねに満たされているんです」
好きなモノ・コトが近くにあれば生活が豊かになる。
最後に、池田さんに今のガレージライフの魅力について聞くと、こんな答えが返ってきた。
「収納して道具(ギア)が隠れてしまうと、“休日の趣味”というふうに日常生活から切り離されてしまう。でも、DIYの工具やロードバイクと同じように、見渡せばすぐそこに趣味のアイテムがあるので、気分が上がって、明らかに生活満足度が向上するんですよね」
たしかに、快適な生活空間を求める上で重要なのは、「自分がここにいたい」と思える場所を作ることかもしれない。そこには、仕事も趣味も全力に向き合う、ひとつの憧れの大人像があった。
- Photo/Dai Yamamoto
- Text/Hisamoto Chikaraishi[S/T/D/Y]
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