広大な庭が愛犬たちの遊び場。外と室内がつながる平屋の家。
ちょっぴり人見知りなヒニーと、社交的で優しいビッケ。人気バーガーレストラン「ARMS」オーナーの岩田さん夫妻が、2頭のラブラドール・レトリバーと、海も山も目前にある、自然豊かな南葉山の土地に平屋の家を構えたのは今から6年前のこと。窓を開放すればリビングと庭の境界線が取り払われ、犬たちが自由に遊び回れる住まいにリノベーションしたこの平屋で紡ぐ、最高に自由な日々を覗きにいってみた。
- 岩田 朋代さん/卓之さん
- いわた・ともよ/たくじ|代々木公園に隣接する人気バーガーレストラン「ARMS」のオーナー夫妻。パークサイドという開放感にあふれるロケーションにこだわった店内は、古きよきアメリカのバーガーレストランのような、ヴィンテージ感とクラフトライクなインテリアも魅力。もちろんペット同伴での来店も歓迎。
- Instagram - @arms_burger
犬たちと暮らしやすい土地を求めて。導かれた南葉山の古い物件。
犬を家族に迎え入れることは、互いに幼少期から犬を飼っていた岩田さん夫妻が、いつか必ず叶えたい夢だったそう。今から16年前、夫の卓之さんがバーガーレストラン「ARMS」をオープンさせた頃、妻の朋代さんが“もしかしたら今がタイミングかも”と思い立ち、たまたま調べたペットショップのサイトで見つけた写真の犬がヒニーだった。
実際に会いにいき、毛色が茶色のチョコラブのヒニーに一目惚れした2人。ひと晩置いて考えた結果、晴れて夫妻のパートナーに。朋代さんいわく「過去に犬を飼ってきたという自信をガラガラと壊してしまうほど暴れん坊でわがまま(笑)」だったヒニーが少し大人になった頃、今度は子犬のビッケが2人のところへやってきた。
「あの日、ヒニーを代々木公園で散歩させていると、向こうから他のラブラドール・レトリバーを連れた飼い主さんがやってきて、話してみると“今、この子の産んだ赤ちゃんたちが車にいるから見ませんかって。そこにいたビッケは小さくてとてもかわいくて」と、懐かしそうに微笑む朋代さん。卓之さんもビッケの愛らしさに射抜かれてしまい、トライアル的に2週間一緒に過ごした後に、ビッケも家族の一員となった。
当時の住まいは夫婦で経営する代々木公園隣接のバーガーレストラン「ARMS」のすぐ近くにあるマンションだったそう。「代々木公園周辺に住む方々の中には愛犬家も多く、犬に対しての理解もあってとても暮らしやすかったのですが、マンションだということもあり、2頭がもっと自由に遊べる家に住みたいと思って引っ越しを考えたんです」と卓之さん。
そうして始めた家探しは、犬たちが好きなだけ走り回れる広い敷地であることと、「フラットに使える平屋が面白そう」という直感を条件に、湘南エリアを中心に物件巡り。ついに出会ったのは、鯉が泳ぐ池に、立派な灯籠まであるという、広すぎるほどの日本庭園のあるごく普通の古い平屋だった。
イメージとかけ離れた物件であるものの、もともとインテリアが大好きだった夫妻は、何もかも新しく作り変えてみようという冒険心を掻き立てられ、「自分たちらしいエッセンスを落とし込んでいけば家族みんなの理想を叶える家になるかも!」と、フルリノベーションを決意したそうだ。
はしゃいで、走って、昼寝して。あらゆる自由をこの庭で。
家作りにあたって、夫妻が大切にしたのは“地続き”であること。
「ビッケとヒニーが外と家の中を行き来するのを、ごく自然な流れにしたかったんです。そのため、土間は拭いてすぐ汚れが落ちるようなテラコッタタイルに。ウッドデッキも広く、なるべく庭とフラットにして、外も中も境目のない生活が送れるようにしました」と語る卓之さんに続いて、朋代さんもこう話す。
「窓は家の印象を決めるものだと思うから、自分たちで探してきた、アンダーセン社の格子のある木製の窓枠はとてもこだわったところです。庭側に面したワイドオープンの窓はふだん開け放たれていて、犬たちもウッドデッキと家の中を自由に往来。遊びに来た友人たちから“玄関はどこ?”って聞かれるくらい、庭と家の中が一体化しているんです」
東京で暮らしていたときは、犬たちを連れてキャンプをするのが家族の楽しみだったが、今では目の前の庭が自分たち専用のキャンプ場であり、ドックラン。
「ここで焚き火をしたり、友人を招いてバーベキューをしたりすることもしょっちゅう。そんなときはビッケとヒニーも“ご馳走がもらえる!”とテンションを高くしています。子どもたちが集まればビニールプールを出すので、この子たちも一緒に水遊びをするんですよ」
好奇心旺盛なビッケは、人も犬も大好き。友人家族が犬を連れて我が家を訪ねてきたときに、他の犬たちに“みてみて!”と合図したあと、庭の池にドボン!と飛び込むパフォーマンスをしてみせたそう。他の犬たちも一緒にたわむれる中、ヒニーだけはクールに不参加だったそうだ。2匹の性格の違いは、こういったエピソードからもわかる。
構ってあげようとしなくても、ここで生活することそのものが犬たちにとっての遊び。それぞれが家の好きな場所で、好きなように過ごしている。
犬たちは、日光浴しながら庭やウッドデッキで寝ていることも多いそうだ。2頭が思い思いに過ごしているから、夫妻もそれぞれ自分の好きな作業に没頭できる。
「庭の手入れや洗車するために外にいると、ビッケはお気に入りスペースのソファに顎を乗せて、僕らの姿が見える場所をキープ。“いるな”って、さりげなく確認しているみたいなんですよね」と卓之さんが話すと、「なんだか監視されているみたいだよね」と朋代さんも笑う。
人と犬はあくまで対等。人生の“相棒”として側にいる。
夫妻が大型犬を飼うと決めていたのは“守ってあげなくちゃ”という親目線の感情が湧くというよりも、独立した存在感があり、人間の対等なパートナーとなってくれることに魅力を感じていたからだそう。
「賢く、空気を読んで行動してくれるので、どこにでも連れていけます。車に乗るのも大好きで、愛車の扉が開くと“どこに行くの!?”とワクワクした様子で勢いよく助手席に乗り込んでくるんです。私たちの行きたいところに相棒としてついてきてくれるから、常に犬たちと一緒という暮らしを送ってきました」
ヒニーとビッケとは“人対人”のような関係性を築いているという夫妻。
「体力もあり、物怖じしないラブラドール・レトリバーという犬種だからこそ、ちょっと険しい道を歩くというときも“よし、頑張っていってみようぜ”という遊び方もできるんです」。ただかわいがるだけでなく、一緒にさまざまな体験を重ねていくことで、2人と2頭は絆を深めてきたのだ。
夫妻にとって、ヒニーとビッケ、それぞれの役割も違うのだという。
「ヒニーは精神的な支えになってくれているし、ビッケは何でも一緒に楽しんでくれる友達みたい。どちらもなくてはならない大切な存在で、いないととても寂しいんです」
犬同士の絶妙な距離感も、家族みんなが心地よくいられる秘訣でもあるそうだ。
「ビッケがやってくるとき、他の犬を受け入れないヒニーとの相性は悪いかもしれないと当時は心配したんです。だけどもそれは杞憂に終わりました。ビッケは11年間ずっと、ボスを立てて折れっぱなし。人間の年齢にすると100歳を越える老犬になったヒニーは、今はもう、ベッドルームで過ごすことが多くなったけれど、リビングのソファにヒニーがやってきたらちゃんと譲ります。互いの領域を侵すということもないから、ケンカをすることもまったくありません」
ヒニーとビッケの間に岩田さん夫妻というバランス。2人と2頭は互いを尊重しているからこそ、適度な距離を保ってこの家で暮らしている。
自然も、暮らしの一部。犬たちと過ごす、豊かな日常。
庭で遊ぶのが大好きな2頭だが、外に連れ出す毎日の散歩も夫婦の日課。
「南葉山は、私たちのような移住者も増えていて、そういった方々が犬を受け入れてくれる場所をどんどん作ってくれているから、とても過ごしやすいんです。今は仕事の都合で、週末は東京のお店に出ることも多いけれど、今後はもっと、南葉山周辺で過ごす時間を長くしたいと夫とも話しています」
近くにはたくさんの山があり、まだまだ登ったことのない場所も。緑に恵まれたこの土地には、遊び尽くせないほどのスポットがある。散歩のついでに、気になるお店に犬たちと寄り道するのも夫妻のお気に入りの時間だ。
「長年連れ添った夫婦なら、手を繋いで歩くなんてこともなくなると思うけれど、この子たちがいるおかげで、2人なら絶対に歩かないような距離でもずっと歩いていけるんです」と、卓之さんも犬たちの存在の大きさを改めて噛み締める。
犬の一生は人間ほど長くない。人間の夫婦や友人、子どもとは違って、一緒にいられる時間は限られたものだと分かっているからこそ、どんな一瞬も大切で愛おしい。この家は、ヒニーとビッケ、そして夫婦が、幸せな時間をともに分かち合うために建てた楽園だ。「だからこそこの家で、できるだけ長く一緒に過ごしていきたいんです」だって犬たちはかけがえのない相棒だから。
ヒニーとビッケと岩田夫妻の、優しく自由な日々はまだまだ続いていく。
- Photo/Sachiko Saito
- Text/Ai Watanabe
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