- 寒川 一(アウトドアライフアドバイザー)
- さんがわ・はじめ|各種メディアやワークショップなどを通じ、アウトドアの魅力を伝播。UPI OUTDOORのアドバイザー、フェールラーベンやレンメルコーヒーのアンバサダーなども務め、北欧のアウトドアカルチャーに造詣が深い。近著『「サボる」防災で、生きる』(主婦と生活社)。
- Instagram - @savorihajime
店内に小川が流れ、魚も?都会のオアシスUPI
「都会のど真ん中に、オアシス出現!」「表参道で、本格的なアウトドアカルチャーを学べるって」。そんな噂が経つようになって、もうすぐ2年。噂のお店は「UPI OUTDOOR 表参道」。
表参道といえば“洗練された大人の街”というイメージが強いが、エントランスから垣間見える空間デザインを目の当たりにし、ウソじゃないことを確信した。
「開業準備しているときから既に、道ゆく人たちが店内を除いて『一体、中で何が行われてるんだろう?』って……。知らなかったら、当然驚かれますよね」
そう話すのは、UPI OUTDOOR(以下、UPI)のアドバイザーとして表参道店のプロデュースにも携わった寒川 一さん。
「UPIの実店舗はここ以外にもあるんですけど、他ストアと大きく異なるのは店内に自然エリアがあること。単なる空間ディスプレイではないので、『メタルマッチの使い方が分からない』という方がいればここをデモンストレーションの場として使っていただき……。キャンプに行く前にここで着火を体感できる、いわゆる体験型のショップですね」
ホンモノの自然を創るための、工夫とは
キャンプブームを受け、最近は家のデザインにおいてもアウトドアに特化した造りがトレンドの一つとして注目されているが、「UPI表参道」の空間演出は“それ”を大きく凌駕する。
エントランスを背に、店舗の左半分にはプロダクトが多数展示され、右半分には“ホンモノ”の森。本来であれば、同じ空間に共存しえない両者。どのような方法でこの空間は創り上げられていったのか。
「表参道店を作る上で、大きな指標になったのは“自然史博物館”というキーワードでした。アウトドアカルチャーに触れることのできる一種のジオラマのような空間を自然エリアとして表現すれば、商品に対する理解度も深まるのではないかと」
UPIが取り扱うブランドはそのほとんどが長い歴史を誇り、なかには創業100年以上経っても姿形を変えずに愛され続けるプロダクトもある。そんなプリミティブな商品の良さを伝えるためにも、“自然史博物館”のような展示が好相性だったそう。
見せかけではない、リアルな生態系を創ることへのこだわり。
リアルな自然をどう空間の中でカタチにしていくのか。
「ちょっと壮大な話に聞こえるんですが、地球は『火・水・木・金・土』の5つの要素から形成されていて、互いを生かし合い、ときに打ち消し合うことでバランスをうまく保っていると言われています」
「水は火を消すけど、火は木を燃やす。でも、木は水から育くまれるみたいな。“見せかけ”なら、『市販の砂利を埋めましょう』とかで済むんでしょうけど、ここに創ろうとしたのは“ホンモノの小さな森”。 なので、土ひとつとってもこだわりがあって」
室内で自然を表現するための細かな仕掛け
窓が低く感じてしまうほど、「UPI 表参道」の自然エリアは大量の土で埋め尽くされている。
「根張りを良くするためには相応の量の土が必要になってくるんですが、有機な土であるということも意外と大事で。土壌の中の菌が木から木へと伝達し、そのネットワークを張り巡らせることで植物は生長する。ここに植えている植物や土もわざわざ九州の山から運び込んだもの。なので、この土は何が混ざっているか分からないぐらいの、生きた土なんです」
天井には太陽光の代わりとなるライトを設置。
「実は一つひとつがコンピュータで制御されていて、1日の時間経過とともに調光調色が変わるようプログラムされています。なので、外にいるときと同様、朝・昼・夕方・夜で明るさが変わり、光合成に必要な照度も事細かく計算されているんです。また、樹木を育てるには風も必要ということで、サーキュレータをあちらこちらに」
足元を流れる小川には、ハヤやオイカワ、カワムツなど約10種の生物が生息。岩を覆う苔が自然の美しさを引き立てる。
本当に川が流れているように感じるが、室内で循環するように工夫されている。
物販エリアの壁には有孔ボードをチョイス。フックやバーを好きな場所に取りつけることができ、家でのギアディスプレイや収納にもぴったり。
人間と自然の“ギブ・アンド・テイク”な関係
リアルな生態系にこだわりながらも、“小さな森”を創ることに最初は葛藤もあったそう。
「人間が自然界を創るということに最初はちょっとした抵抗感もありました。でも、実際にやり始めると『あ、そうじゃないんだ』って」
「植物に毎日水をあげたり、魚もちゃんとケアしてあげて、僕らがしっかり向き合えば、その分、自然からもギフトが届くって気づいたんです。意識しているわけではないですけど、ここのスタッフがストレスなく働けているのは、いつもこの“小さな森”に癒されているからだと思うんですよ。
もっと言えば、閉店後は締め切った店内で植物たちは光合成をしているわけですから、朝の空気はもうオゾンなんですよ。渋谷区イチ、新鮮な空気のなかで1日をスタートできているんじゃないかって(笑)」
恩恵がある一方、店舗の中に“小さな森”を作ったことで生じるデメリットも。
「湿気でプロダクトがカビないようにファンを取り付けるなど、自然エリアのメンテナンス以外にも大変な部分は正直あります。けれど、それこそ五大元素みたいな、僕らと自然も持ちつ持たれつの関係にあるんだなって。小さい店舗の中だからこそ、それをすごく感じますね」
スケールの大きさは違えど、身の回りに“好き”を散りばめればライフスタイルは充実する。
でもただ集めるだけじゃなく、『グリーンはしっかりお世話をする』『アウトドアギアはしっかりメンテナンスしておく』など日常の何気ない幸せや喜びは、実は“ギブ・アンド・テイク”のバランスの上で成り立っているのかもしれない。
- Photo/Hisanori Suzuki
- Text/ GGGC
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