大橋トリオ|音楽が生まれる田舎との二拠点生活
自身の楽曲や映画音楽、CMソングの制作など幅広く活動する大橋トリオさん。音楽活動と生活の拠点を東京に置きながら、郊外に別荘&プライベートスタジオとしての一軒家を持ち、二拠点生活をしているそう。他にはない独自の感性で音楽を作り続ける大橋トリオさんにとっての、二拠点生活の魅力や空間づくりのこだわりとは。
- 大橋トリオ(音楽家)
- おおはし・とりお|1978年生まれ、千葉県出身。歌手、作曲家、音楽プロデューサー。2007年に、大橋トリオ名義で歌手としてメジャーデビューを果たす。自身の楽曲を発表しながら、ドラマや映画の音楽制作や他のアーティストへの楽曲提供、プロデュースを手掛けている。本名の大橋好規名義でも音楽活動をしている。
- Instagram ‐ @ohashitrio_official
大橋トリオさんが二拠点生活をするワケ。
ここ数年で耳にすることが増えた“二拠点生活”という暮らしのかたち。音楽家の大橋トリオさんも都会と郊外、両方での生活を楽しんでいるひとりだ。メジャーデビューから現在まで、このライフスタイルで過ごしているというが、田舎に家を持つようになったきっかけは「自分が憧れる、川の近くに建つかわいらしい一軒家を見つけちゃったから」。
メジャーデビュー以来15年間、何度も行き来しながら、今の形に落ち着いたという。
「初めから簡易的に音楽を制作できる環境にはしていたんですが、次第に楽器や機材が増えていって、自然の成り行きでスタジオのような空間ができました」。豊かな自然の中に佇むすてきな一軒家の中を、大橋さん自ら案内してくれました。
愛嬌がある家具とともにリラックス。
ウッディな空間をベースに、いろいろなアイテムが互いに寄り添うように調和する室内。世界から切り離されたような、穏やかな時間が流れて心地いい。リビングスペースは、自然と集まる大きなテーブルとアーティスティックな壁の装飾が目を引く。
「このテーブルは、この家を建てた大工さんがしつらえた手作りで、入居当時からあります。かなり大きくて、お客さんやバンドのメンバーが来た時もゆったり過ごせる場所です」
リビングとプライベートスタジオを仕切る壁には、お気に入りの絵と鏡を配置。大橋さんこだわりのレイアウトは、奥行きのあるような不思議な感覚にさせる。
「ちなみに、右上の絵は原作者のトーベ・ヤンソンが描いたムーミン谷の地図が描かれたイラストです。この家のテイストに合っていて、お気に入りなんです」
空間づくりやインテリア選びのコツを聞くと、実はあまり計算をしているわけではないとの答えが。
「家全体がログハウスのような雰囲気なので、それに沿って家具を選べばいい。家具についてはあまり深く考えていなくて、デビュー当時にIKEAで買ったリーズナブルな食器棚やソファをいまでも愛用しています。強いていえば、フレームがかかっている白い壁やキッチンの青い壁は、空間にメリハリがつくように自分で塗りました」
テーブル奥には、ソファエリアが。ここから隣のキッチンやプライベートスタジオの様子を眺めることができる、フロアのハブになっている。プライベートスタジオとの境目には自動で昇降するスクリーンを設置してあり、友人たちと映画や動画を観ることも多いそう。
特にお気に入りの場所は、スクリーンを正面から見られるひとり掛けのソファ。
「個人映画館、最高なんです。あとは、友人やバンドメンバーが来た時に、思い思いに好きな動画を流して鑑賞会をしています。それ以外にも、ただここに座ってぼーっとしたり、気ままにギターを弾いたりも」
大きな窓から気持ちいい日差しが入り、アンティークの鏡やヴィンテージライクなクッションなど、ひとつひとつディテールを眺めるのが楽しい空間。大橋さんが“リラックスできる場所”というのもうなずける。
楽器愛とDIY精神があふれる唯一無二の個人スタジオ。
当初はリビングとして使っていた、2階相当の高さのとんがり屋根の部屋。いまは楽器と機材があふれるプライベート・スタジオとして活用。
「元々音楽制作を行うパソコンや録音機器は別の部屋にあって、ここはピアノやドラムセットを置く場所だったんです。ピアノやドラムを録るときだけ、マイクケーブルをこの部屋まで引っ張ってセッティングして。でもある時、ここですべてを完結させようと思って、調整していたらすごくいい空間が出来上がったんです」
中でも気になるのが、天井にタープのように吊るされた大きなラグ。
「音響調整のために吊るしています。音響関係のスタッフさんにこのスタジオを見てもらった時に『大橋さんが求めている音を作るには、天井にラグを垂らす方法もあるよ。見た目もいいし』って。それからラグをめちゃくちゃ探しました(笑)。結果、運良くオークションでいいものを見つけて。ホームセンターで一番高い脚立を買ってきて、スタッフさんに手伝ってもらいながら設置しました」
そんなDIY精神もあふれているからか、電気機器が点在しているにもかかわらず温もりを感じるスタジオ。空間の中心には、音楽制作の中でもメインの作業をするPCやシンセサイザー、スピーカーなど機材を配置。その向かいには、音楽を聴くために座るソファ。そして、その周りをギター、グランドピアノやドラムセットが囲む。機材を入れているラックは大橋さん自身による手作りだとか。
ドラムセットの下には、過度に音が響かないようにラグを敷いている。
「最近は演奏が楽しくて、ドラムばかり叩いていますね。楽器はどれもそうだけど、やればやるほど新しい発見がある。ドラムの機材をアップグレードしているので、これからも増えていく予定です(笑)」
二拠点生活が音楽家に大切な余裕を生む。
好きなものややりたいことが詰まった手作り感のある大橋さんのスタジオ。この場所に流れる自由な空気は、大橋さんの音楽にどのような影響を与えているのだろうか。
「音楽が自由に作れる場所があるおかげで、いつでも思いついた時に集中して作業できて、思い通りの音を追求できるという点は魅力ですね。この家の周りに民家はありますが、結構離れているので気兼ねなく音が出せます。防音はしていないので、もちろん夜中は鳴らしませんが。音楽制作だけでなく、バンドメンバーやサポートしてくれるメンバーが集まって、セッションしたり、大きな音で好きな音楽を流したりして楽しんでいます。十分な空間とすばらしい音楽があったら、人は輪になって踊るんだなってわかりました(笑)。全身で音楽を楽しめるここでの時間は、僕にとって宝物で、そんな充実感を感じられることは、音楽をやっている身にとってとても大切なことです」
プライベートスタジオをもてる二拠点生活が、音楽家としての余裕を生んでいるようだ。でも、充実した設備と時間に満たされた空間も、大橋さんにとってはまだまだ未完成。
「音響調整はもう少しやらないといけなくて。あと、居住スペースの方もブラッシュアップしていきたいと思っています。家具を一新したいですね。ただ、この家に来るのは、音楽制作に集中したい時なので、なかなか進まないんです(笑)」
はたから見ると完璧に見えるけど、実は常に進化を続け、完成を迎えない家。この別荘はもしかしたら、まだ誰も聴いたことのない新しい音楽を作りつづける大橋さんの想いや考え方が色濃く反映されているのかもしれません。大橋さんの二拠点生活は、まだまだ可能性を秘めています。
- Photo/Hisanori Suzuki
- Text/Hisamoto Chikaraishi(S/T/D/Y)
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