- 椿鬼奴(芸人)
- つばき・おにやっこ|26歳で芸人デビュー。以後、テレビと舞台を中心に幅広く活動。『世界の果てまでイッテQ!』にレギュラー出演中。また、お笑いユニット「キュートン」としても活動。2019年にはソロデビューアルバム「IVKI」をリリース、スレンダリーレコードから発売。
- Instagram ‐ @tsubakioniyakko
狭い間取りの味方だった、思い出の“ロフトベッド”。@横浜市日吉
物心ついたときからずっと住んでいた代官山の家を売り、母と弟と一緒に日吉に引っ越したのは20歳のとき。そこに2年くらい住んだ後、母が同じ日吉内で見つけてきたのが、この新築のUR団地でした。2LDKでしたけど、リビングが広かったので、それを区切って私の部屋にしていましたね。
下のスペースに机やハンガーラックを置ける、ロフトベッドってあるじゃないですか? あれで寝ていたんですよ。「20歳を過ぎてこんなベッドで寝ている人はいるのかなぁ……」って思いながら(笑)。途中からは、この家に兵庫の従兄弟も居候するようになって、彼はベッドの下に布団を敷いていましたね。なんで従兄弟が住むようになったのかはよく覚えてないんですけど、高校を卒業したばかりだったから、たぶん東京で自分探しをしたいって思ったんじゃないですかね。日吉は神奈川なんですけど(笑)。
日吉は街自体も思い出深いんですよ。私が住んでいた時代の代官山にはまだコンビニやスーパーもなかったので、引っ越してまず感動したのが「ユニー・サンテラス日吉」っていうショッピングセンターがあったこと。そのことを芸人になって組んだバンド、「金星ダイヤモンド」で「代官山から日吉へ行く物語」という曲にもしています。
免許を取ったのも日吉自動車学校だし、パチンコやお酒を覚えたのは日吉。とにかく住むのに便利で、代官山時代とは生活がガラッと変わりました。酔っ払って転んでめちゃくちゃ足を強打して、松葉杖をつくなんていう失態をやらかしたこともありますが、それも含めてとても楽しかったですね。
「方角が悪い」と忠告され、風水に目覚める。@横浜市あざみ野
日吉の次に引っ越したのが、あざみ野の団地です。この家でも母と弟の3人暮らしでした。日吉は住み心地がよかったんですが、当時の私たちには家賃がちょっと高かったんですね。ちょうど私が芸人を始めた時期で、劇場の仕事はあったけどお金はほとんどもらえないし、だからといってバイトする時間もないという時期でしたから。
だけど、引っ越した直後に母の職場のお抱え風水師の方に間取りを見てもらったら、めちゃくちゃ文句を言うんですよ。「方角が悪い」とかって。「もう引っ越しちゃったのにそんなこと言われても……」と思いつつ、すごく気にして落ち込んでいる母がかわいそうで。
何かできることはないかと本屋さんで手にとったのが、Dr.コパさんのインテリア風水の本でした。それでトイレのタオルを暖色にしたり、テレビは“気”が強いからそばに観葉植物を置いたり、今の家の中でできることをやってみたら、母の機嫌がよくなったんですよ。当たるか当たらないかはともかく、住んでいる母が元気になったので、「これはいいな」と。
他にも、芸能の仕事をしている人は寝室にラジオや赤いものを置くと情報が入ってくるとか、玄関からはいろんな“気”が入ってくるから、凸面鏡を置いてそれを分散させたほうがいいとか……。とにかくできることは試してみました。凸面鏡はネットで買って、今でも大事に持っています。だから、この物件は私が風水に目覚めた場所なんです。
不思議現象連発! でも、芸人的には最高な部屋。@川崎市武蔵小杉
あざみ野の次に住んだ武蔵小杉の家は、弟が自立したので母と2人暮らしでしたが、とにかく狭くて不便でしたね。代官山のときから使っている大きいダイニングテーブルを無理やり置いていたんですけど、冷蔵庫のドアが椅子にぶつかって半分しか開きませんでしたから(笑)。
それに変なことがよく起きる家でもあったんですよ。母の部屋のタンスの上に、電球とかを入れているダンボールがあったんですが、それがやたらガタガタいうんですよ。ポルターガイストですよね。それとは別のタンス上には、母が趣味で集めていた人形が何体も置いてあったんですけど、その中のベトナムのお土産の人形だけが、気づくと勝手に近くの神社の方向を向いているということもよくありました。
極めつけは、私が所属する「キュートン」のイベントがあったので、オリジナルTシャツを着ようとしたときのこと。よれたりするのが嫌なので、いつもは畳んでしまってあるんですよ。それを半年ぶりくらいに引っ張り出して着たら、左の二の腕に激痛が走って。「痛っ‼」と思って見たら、5センチくらいのスズメバチがいたんです。たぶん前にベランダで干して取り入れるとき一緒に入って、半年間ずっと潜伏していたんでしょうね。数日前に見たテレビで、スズメバチに刺されたらアナフィラキーショックが起きて最悪の場合は死ぬって言っていたので、私、臆病だから救急車を呼んじゃいました。結局、何でもなかったんですけど。
でも、ちょうどテレビに出始めの頃だったので、そういう話を番組でしていたら、ありがたいことに、家に関係する仕事が結構もらえて。雑誌によく霊媒師の広告が掲載されているじゃないですか? その中の1分500円と1分5,000円の人ではどっちが当たるのかを検証するという企画で、「実はこういう物件に住んでいて……」って相談するなんてこともしましたね。結果、どっちの霊媒師も「2体、うろうろしているのがいます」って同じことを言っていましたけど(笑)。
この家では、お宅訪問ロケもずいぶんやりました。最終的には明石家さんまさんにまでお越しいただいて。だから、不思議な物件ではありましたが、芸人の私にとっては逆にめちゃめちゃよかったような気もしますね。
振り返ってみると、日吉やあざみ野に住まなければパチンコやお酒、風水にハマらなかったかもしれないし、武蔵小杉に住まなければ芸人としての仕事が増えてなかったかもしれない。この3つの間取りが、“今の私”の礎を築き、いい方向に導いてくれたのかもしれませんね。
- Photo/Hisanori Suzuki
- Text/Keisuke Kagiwada
- Illust/Sajiro
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