LIFE LABEL Hello, new fun. LIFE LABEL Hello, new fun. LIFE LABEL Facebook Facebook Pinterest YouTube Instagram Instagram Twitter Twitter hatena Feed

SEARCH

記事を探す

“偏り”こそがオリジナリティ。人の縁が紡ぐ色彩豊かな空間づくり。
ART & MUSIC 2024.08.19

“偏り”こそがオリジナリティ。人の縁が紡ぐ色彩豊かな空間づくり。

さまざまなテイストがミックスされたおもちゃ箱のような部屋。ヘアカラーリストの湯本香織さん、ヘアスタイリストの宮崎陽平さん夫妻の自宅&プライベートサロンには、2人の「好き」が詰め込まれている。インテリアのバランスを考えずとも「好き」なものだけ集めれば、その人なりのカラーができあがる。そんな、2人の感性でしか作り得ない自由な空間を覗いてみよう。

INFORMATION
Kaori Yumoto/Yohei Miyazaki(プライベートサロン Yummo 主宰)
Kaori Yumoto/Yohei Miyazaki(プライベートサロン Yummo 主宰)
ゆもと・かおり/みやざき・ようへい|同じ美容室に勤務したことをきっかけに出会い、湯本さんはカラーリスト、宮崎さんはスタイリストとして2人で独立。自宅と同じマンション内にプライベートサロンYummoを構える。2匹の愛猫のテト、クロロと暮らす。

人との縁が巡り合わせてくれた築56年のマンション。

夫妻と2匹の愛猫が暮らすのは築56年、2LDKの賃貸マンション。もともと友人が住んでいたマンションで「物件が空いた」との噂を聞きつけ紹介してもらったという。
「友人から紹介されて大家さんに会ってみたら、たまたま別の友人のお母さんだったんです。そんなご縁が決め手で、ここに住むことを決めました」と湯本さん。
入居が決定したタイミングで部屋を見てみると、居室の畳は傷み、台所のシンクも取れかかっているほどボロボロの状態。そんな中、特に大切にしたのが開放的な雰囲気。宮崎さんがスケルトン、湯本さんがインテリアの構想を担当し、自分たちの手で空間作りを進めていった。

「前の住人が40年間住み続けていたということもあり、部屋自体は年季が入っていたのですが、リビングの大きな窓がすごく気に入ったんです。この開放感を残したいと思ったので、残さなきゃいけない柱や壁だけ残して、あとの壁はすべて取り払って光が入るようにしました」

明るい空間であると同時にたくさんの色柄が目に飛び込んでくるのは、カラーリストである湯本さんらしさで、「色が大好きなので、色をいっぱい取り入れようと思って。もともとインテリアが好きなので、Pinterestや雑誌から好きな写真を集めて、自分なりのネタ帳みたいなものを作っていたんです」と家づくりについて話してくれた。

「いつか家の近くに自分たちのお店を出したいね」とも話していた2人。なかなかめぼしい物件がなく、気長に待とうと思っていたところ、ちょうど同じマンションの上の階が空室に。すかさず大家さんに話を聞きにいき、プライベートサロンYummoもオープン。もちろんこちらもDIYで空間作りをしていった。

方向性は決め切らない。「色」を出発点に試行錯誤した自宅のインテリア。

「色をたくさん使いたい」という希望があった湯本さん。同時に、キューバやメキシコなどの南米の国々、アフリカ、アジアなど、さまざまなテイストが好きなため、そのすべてを詰め込んだ。

「キッチンの壁を赤にしたいというのは決まっていたんです。それを基軸にしつつも、いろんなテイストが好きだから他の部分の方向性に最初は迷ってしまって。なので、ひとまず好きなお部屋や暮らしの風景の写真を集めて、そこから好きな色を抽出していきました」

DIYを始めた当時は、2人とも前職のサロンに勤務。仕事終わりにここを訪れ、平面図を起こして湯本さんの「ネタ帳」をコラージュしたり、カラーサンプルの紙を壁にあてたり、夜な夜な試行錯誤を繰り返し、内装を決めていった。

最初に色を決めていたキッチンが、宮崎さんの特にお気に入りのスペース。使いやすく設えられた棚には天然酵母や自家製の梅酒などが並ぶ。お皿を差すタイプの食器棚や、自ら設置したシンクなど、個性が光る空間になっている。
「料理をよくするのでキッチンがいちばん好きですね。最近のお気に入りは導入したばかりのガスオーブンと作家さんが作った鉄鍋。お皿を1枚1枚差すようにしまう食器棚は南青山のGRANPIEという民芸雑貨屋さんで買ったインド製のものです」

湯本さんのお気に入りのポイントは、部屋作りにおいていちばんの難所でもあったというリビングとダイニングの床。菱形や台形の木製パーツを何百枚も自分たちの手で張っていった。

「プロの方は湿気を吸う木をタイル状に並べるということはあまりしないそうなんです。そんななか、足場板を扱う会社をやっている知人の夫婦に相談したところ『一緒にやろうよ!』と言ってくれて実現したんです。ずっと中腰で作業するから本当に大変だったんですけど、みんなで2日かけて張り終えました」

ほかにも湯本さんは、リビングのラウンジチェアがお気に入り。これもキッチンの食器棚と同じくGRANPIEで購入したものだ。

「この椅子に座って、自分の好きなものがいっぱいあふれている部屋を眺めている時が至福なんです。私は植物もすごく好きで部屋にもベランダにもたくさん置いているので、ここからだと植物も眺められて幸せです」

友人の協力や母親から譲り受けた家具、周囲の人々との縁が紡いだサロン。

「好き」を詰め込んだカラフルな空間、ということは、自宅にもサロンにも共通している。しかし、サロンを作っていくにあたっては、大工やペインターの友人に協力してもらい、家族が使っていた家具を引き継ぐなど、周囲の人の感性も落とし込まれている。

「お店を作る時にまずはセット面から決めていきました。私の母が使っていた鏡台の鏡を設置していて、この椅子も絶対に置きたいと思っていたんです。これらにあわせて大工さんが鏡の周りの棚を作ってくれました」と、湯本さんはサロンを見渡して微笑む。

また、部屋の角に設置された柱もインド製で、湯本さん曰く、サロン作りの軸になったアイテムのひとつだとか。

「この柱は色の塗り替えなどはされていなくて、もともとこんなにカラフルだったんですよ。その横の壁のペイントとサロンの床柄のデザインは、ペインターの知り合いにお願いしたものなんです」

打って変わってシャンプー台は真っ白にしたいと決めていた。アールを活かした空間と漆喰の質感によって、また違った異国情緒が醸し出されている。

「好き」という偏りこそがオリジナルのテイストに。

自分たちの好きなものやこだわりを落とし込みながらも、「実はもらいものもすごく多くて。ものが自然と引き寄せられてくるんですよ」と笑う湯本さん。

リビングのベンチは友人が営むインドジュエリーショップの什器だったものを「家に合うんじゃない?」と譲ってもらった。ほかにもパン屋で使われていたディスプレイや食器棚、中国の箪笥、実家から引き取った椅子やミシン台など、さまざまな家具を譲り受けてきた。

自宅の壁面からも周囲の人とのつながりが強く感じられる。ダイニングに飾ってある絵は、湯本さんの植物や花のある生活を見た友人が、飾ってある花をモチーフにして描いたもの。

他にも人物画ポスターや石をモチーフにした包装紙など、仲のいいアーティストたちの作品が家族の生活を見守ってくれている。

多様なテイストが好きで、もらいものの家具も多い。それでも統一感がでるのは、湯本さんと宮崎さんがそれぞれのアイテムを「好き」ということが共通しているからだ。20代の頃はファッションもインテリアも好きなものが多すぎて「私って何系なんだろう?」と悩んでいたという湯本さんだが、ある友人からの言葉で「好き」を追求するようになった。

「私が人生の師匠だと思っている人のおうちも、いろんなテイストのものがたくさん置いてあるのに素敵な空間で不思議だったんですよ。話を聞いてみたら『自分の好きなものを集めたら自分の空間がデザインされるのよ、それでいいのよ』って言っていて。それからは『好き』という、その人自身が持つ偏りがオリジナルのテイストになっていくと思えるようになりました」

  • Photo/nae.jay
  • Text/Aiko Iijima
LL MAGAZINE